苦しかった時の話をしようか③


何の実績もない塾にな



身を預ける子たちは



点数は低いねんけど、




やる気にあふれた子が多かったわ。




どこの塾でも相手にされへんかったっていう




悔しい思いがあるんやろうな。





毎日、毎日、補習に呼んで。




付きっ切りで面倒見るんや。





そしたら、5教科で、100点。150点。




順調に点数が上がったわ。





するとな





噂になるやろ。




「あそこはよく面倒見てくれるで」


「成績伸ばしてくれるで」



ってな





だけど



ここからジレンマとの戦いになるんや。




ある時からな




入塾面談してても、




「やる気スイッチを押してください。」





「成績を上げて下さい。」




「前の塾では合わなくて…」





塾に来たら




勝手に成績が上がると思い込んでんねんな





次々と転塾生が来たわ




こういう理由で来る転塾っていうのは



塾の責任半分



その子の責任半分なんや。




努力することを放棄してな、




点を取りたいと思ってるから、




頑張ったろうっていう、




芯の強さが無いんや。




言葉に重みがないねん。




自習室に来るって言いながら



来んかったり





宿題できませんでした


って




すぐに




言い訳すんねん。




こっちもな、気付くからな。





あー、



これが前の塾で相手にされんかった理由やな



って




ようやく気づくんや。






だけど、お預かりしている以上な





少しでも姿勢が良い方向に変わるように




叱ったり褒めたり




こっちも八方手を尽くすわ。




だけどな



一時的に成績が上がってもな、




やっぱりそれは張りぼての力やねん。






継続的な努力なくしてな、




本当の力にはならんねん。





大事なのはな。




成績が上がった「後」なんや。






芯がしっかりしとらん子は




ここでダレるんや。






悪い時は、



みんな




何とかしよう


って



それなりに思うわ。




だけどな



その子の本質がでるのは




「良い時」や。






これな、



みんな



おぼえてて損ないで。






あげてもらおうとか。



塾に行けば何とかなる



っていう




依存度の高い生徒が




クラスに蔓延し始めるとな




クラスの雰囲気は崩れるねん。





授業中もどこかざわついたり。




変な空気が流れるんや。





良い空気っていうのはな、



先生が笑かした時に「ドっ」と笑ったり




クラスの動きが一致するねん。





一方でな





悪い空気っていうんは、




「ドッ」とならんねん。



笑いのタイミングがずれたり、



その瞬間にこそこそ話をしてみたり、




先生と生徒の呼吸が同期せんねん。




こうなるとな、





空気の管理に神経の大半が使われてな




教師の目はな。




頑張り屋を盛り立てる



という




大切な仕事から




教室のやかましいやつを





押さえる



っていう





不毛な仕事に向くねん。





恥ずかしい話。




あの時は




全学年1年間で




20名近くの退塾出したわ。





退塾1名出すだけでもな、心は苦しいねん。






生徒数が



減るって意味だけじゃないんや。





期待に応えきれんかった



そういう意味やからな。




つまり、




自分の実力の無さがな




突き付けられるんや。





もっと、




他に方法はなかったんか。



最善は尽くせたんか?




何が足りんかったんやろう




って




仮にその子らに、



問題や欠点があってもな




それを改善することが




俺の仕事やろ。





こどもなんやから、




多少の欠点があるのは





当然なんや。




最善を尽くすべきやろ?




諦めたらアカンやろ。




退塾したらな





もう、言葉はな



決して





届かんねん。





二度とやで。








塾の名簿にはな




卒業生のページがあってな。




最終進学先がどこか、





書いてるねん。





最後まで、




指導させてもらった証や。




一方でな、





退塾者のページもあるねん。






氏名とな




退塾の原因が書かれたページや。





そこはな



期待に応えきれず



信用を失い



自分の無力さを




痛感させられた





苦しかった日々の塊やわ。




























あそこは、ちゃんとしないと辞めさせられる。



厳しい塾。




そんな噂が広まっていったな。