昨日の卒業パーティーをもって、11期生たちはこの塾を巣立っていきました。
これが、彼らと私との最後の時間でした。
早い子では小学校4年生の頃から通ってくれて、気づけば6年間。
まだランドセルが背中の大きさと同じくらいだった頃の姿を思い出します。
今では私よりも身長が大きくなり、顔つきもすっかり大人びました。
人生の半分近くを、この塾で過ごしてくれた子もいます。
その年月の中には、勉強だけでなく、喜びや悔しさ、涙や笑顔がたくさん詰まっていました。
三人きょうだいの末っ子という生徒も何人かいて、最初のごきょうだいから数えると10年近く一緒に歩んでくれたご家庭もありました。初めて見たときにはまだ手を引かれていたあの子が今では堂々としています。塾の歴史と共にあるご縁に、感謝してもしきれません。
卒業式が終わったあと、小学生の頃に理科実験を楽しんでいた姿や、中1で初めて定期テストに取り組んでいた頃の写真を振り返っていました。
練った小麦粉を教室中にキャーキャー言いながらまき散らし、止めろと言っても止めずに、塾の床がツルツルになってしまい、その後の掃除は本当に大変でした。それ以外この実験は封印することにしたのですが、それもまた懐かしい思い出です。
思わず時間の速さを思い知らされ、懐かしさとともに胸がぎゅっと締めつけられました。
子どもたちは、本当にあっという間に大きくなっていきます。その変化は喜びであると同時に、少しだけ寂しさもありました。だからこそ、今この時にしっかりと関わることの大切さに、あらためて気付かされました。
私には忘れられない光景があります。
中1の夏、B組の子たちは宿題すら自分で終わらせられなくて、職員室で輪になって一緒に勉強したことがありました。「先生、もうわからん…」と半ばふてくされながらも、鉛筆は離さず、横の友達に答えを聞いては書き直していたあの姿。笑い声まじりの勉強会でしたが、期限までに間に合わせることを理解していくという第一歩目を踏み出しました。
中3になっても、最初はなかなか受験生の顔にはなれず、時に先生に反抗し、そして模試の結果に落ち込む。変われない自分と、変わりたい自分との間で、悔しさをにじませ、葛藤し、焦り、それでも少しずつ、自分を変えていこうとする背中は、言葉にできないほどまぶしかったです。
幼かった頃からのことを振り返ると、自分の足で立ち上がろうとする姿に、3年間の成長を感じずにいられませんでした。
一方、A組は「できて当たり前」という見えないプレッシャーとずっと闘っていました。「また間違えたらどうしよう…」「点が下がったら、みんなにどう思われるだろう…」
そんな不安を表には出さずに頑張っていた子たち。失敗を恐れ、自信を失いながらも、追い詰められた時にこそ周囲の声に耳を傾け、持ち前の素直さで逆境と向き合いました。
周囲からは見えないものですが、出来る子には出来る子なりの苦しさや悩みがあるものです。
長い付き合いですので、悲しい時も嬉しい時も顔を見ればすぐに分かりました。一言も言葉を発していなくても、目を見れば伝わってくるものがありました。
秋から始まった模試は、公式戦のようなものでした。本気だからこそ、心が動かされる瞬間が何度もありました。自己ベストが出たとき、友達に負けて悔しかったとき。答案を見て「あと1問…」と涙ぐんだあの顔。どれも、努力の証そのものでした。
「家にいたらケンカになるから塾に逃げて来た」と話してくれた子がいました。お母さんと顔を合わせると、ついぶつかってしまう。そんな時期だったのだと思います。
でも、塾で話を聞いていると、みんなお母さんの想いをちゃんと受け止めていました。
「わかってるけど、素直に言えないだけ。」それだけ、お母さんの存在が大きくて、大切だったんだと思います。だからこそ素直になれなかったのかもしれません。この時期は、親にとっても、子にとっても、本当に苦しい時期だったのかもしれません。
年が明けて1月。公立判定テストが始まる頃、教室には張りつめた静けさがありました。鉛筆の音だけが響くその空気は、緊張そのものでした。結果が思うように出なかった日、肩を落とすその姿を見て、優しい言葉をかけてあげたい気持ちは山ほどありました。しかし、合格させたい。その一心で、時に厳しい言葉も伝えました。
本気で頑張っていることは、十分に伝わっていました。
だからこそ、信じているからこそ、言葉を選びながら、背中を押しました。
「まだまだやれる」この言葉が、ただの励ましで終わらないように。そして口先だけにならないように。行動でそれを示すことが、私の責任だと信じてやってきました。
何十年も受験指導をしてきましたが、「これが正解だ」と胸を張れる方法は、いまだに見つかっていません。学年が変われば、生徒も変わり、生徒が変われば、指導も変わる。「これでよかったのか?」と、自問自答する日々です。
しかし、「子どもたちが全力で頑張れる場所を」そして「仲間と励まし合いながら成長できる環境を」用意するという想いだけは、ずっとブレることはありませんでした。
残念ながら、第一志望に届かなかった子もいました。でも最後まで、本気で挑んだその姿は、誰よりも立派でした。結果だけでは測れない、彼らが得たものは、確実に心の中に残っているはずです。
そして、そこからまた、一歩を踏み出してくれると信じています。
長い子で6年。短い子でも1年。
大切なお子様を託してくださったことに、心より感謝申し上げます。
彼らが次に向かうステージで、また新たな花を咲かせてくれることを、心から願っています。
そして、もしまたどこかで出会えたら、思い出話を笑顔でできたら嬉しく思います。
卒業、おめでとうございます。
そして、これまで本当に、ありがとうございました。
郷田