奈良には全国屈指の有名私学、東大寺学園と西大和学園がある。
今日は、西大和学園の変貌が入試問題から垣間見えた瞬間について少し話してみようと思う。
入試問題を遡るとその系譜が見えるのが常である。
その昔で言えば、灘・甲陽学院で出題された問題が次々と他の学校へコピペされ、そのパターンが広がっていった。
分かりやすい例で言えば原子量を元にした質量比問題がそうである。
今でこそ一般的になったが、走りはまさにこれらの学校だった。灘、甲陽から大阪桐蔭、近大、その他へと広がっていく。
ファーストペンギンの学校は、常に新しい切り口で問題作成が求められ、受験生の論理的思考力をこれでもかと試す。中学生がギリギリ解ける最低限の情報のみを与え作問する。
トップランナー故の生みの苦しみ、宿命といえる。
逆説的に言えば、苦しみを背負い、問題を作成するからこそ、それに相応しい生徒が集まる。
入試問題は学校からのラブレターであり、愛を受け止められる受験生を探している。
入口でしっかりと篩いにかけていなければ、後に悲しいお別れがまっている。
お付き合いする前にフラれるのも辛いが、お付き合いした上でお別れするのはもっと辛い。
十数年前からだろうか、西大和学園の理科が急に解きにくくなった。
何この図?
生物で見たこともない図が入りはじめた。
今までの二番煎じ学校が、生みの苦しみを見せ始めた。
「酸素解離曲線」
ヘモグロビンと酸素の結合率を示した図だ。
高校で生物を選択した人にはなじみの図かもしれないが、物理化学選択の私は初めて見た。
長年指導している教師でも所見の問題はやはり手を焼く。
全国屈指の学校の一角に名乗りをあげようとする姿勢が垣間見えた瞬間だった。
入試問題の作成は、学校の先生たちが半年ほどかけて1人2題程度作成し、教科会議にかけ、吟味。審議。何度も加筆修正を加えた上で作成される。
血と涙の結晶改め、知と汗をしたたらせて日夜作成している。
書店に走った私は高校生物の教科書で酸素解離曲線の図を見つける。また別の年には、グルカゴンとインスリンについての問題。どれも中学生にはなじみのないテーマである。
所見の問題でも知識に頼らず「読解力と論理的思考力で攻略せよ。」強烈なメッセージだった。
西大和は理科が大問4問構成。
大問4は物理。大問1が生物というのが相場だった。易しい問題から順に並べるというのがその理由だ。
しかし、大問1でいきなり未知の問題に遭遇する受験生の心理的負担は試験開始後10秒で極大化する。
頭真っ白。パニック。震える手。
広瀬香美もビックリの雪原が頭には広がっている。
停止する脳みそに「落ちつけ」と言い聞かせながらも「落ちる」自分がチラつく。第1問目から心が削られる。
共通テスト数学で面食らう受験生の心境を疑似体験させたいのだろうか。
ここ近年の西大和学園の飛躍は偶然ではない。すでに10年以上前には学校の方針として覚悟を決めていたはずである。京大全国No.1から東大へのシフト。これは偶然ではない。全国屈指の最難関校に変貌を遂げるために、受験生を選び始めた瞬間をそこに感じた。
何かを手に入れるには生みの苦しみは避けては通れない。