S ちゃん 、H ちゃんの出来事から見る、前に進むための方法。

昨日あった2つのことを話そう。

1つ目は中3 の女の子S ちゃんについて。S ちゃんは秋になって受験校をA組が対象とする高校にしたいと言ってクラスを上げてきた。実力がそれに見合うということではなく、希望がそこだったというだけ。授業に付いて行けるかどうかという不安はもちろんあったが、本人が頑張ると言っているのだからまずは信じてみることにした。

やる気はあるが、どこかサボり癖がある。さぼりというと言葉は悪いが、最後まで突き詰めて考えることから逃げる。1つ上のクラスに上がるために過去の授業動画も時間の限り見て頑張った。4月から9月までの授業動画をわずか1ヶ月足らずで見たのだからその必死さは伝わる。

しかし、焦るがあまり、表面的な理解しかなく、ちょっと角度を変えて問われると完全にお手上げ状態。この2ヶ月で何を手にしたんだ?と思うくらい薄い理解だった。

難しい問題に出くわすと、すぐに答えを見てしまう癖もある。自分で答えを生み出すという苦しみを受け入れず、考える間もなく答えを見てしまう。その安易な姿勢が現在の苦しさの原因だ。

S ちゃんのこの姿勢が発見されてからは、配布する教材から模範解答、解説に至るまで全て消した。手間がかかって仕方がないか、問題の採点、修正指示は全てこちらでやることにした。

考える訓練こそがS ちゃんの壁突破の秘訣なので、ヒントは与えるが答えまでは言わない。そんな指導が続いた。

昨日の日曜日はS ちゃんの中学校の定期試験ちょうど10日前になるので、本来であれば定期試験に向けた準備をするところを、彼女はそれを行わず夕方の4時から8時まで4時間数学の1問と格闘した。

あーでもない、こうでもないと独り言を言い続け考え続けた。こういう指導をすると、考えることを放棄したり、思考停止してしまう子が多いのも事実だ。なので、こういった指導は常にその子を目の前におかないと時間だけを無駄に過ごさせてしまう。

昨日の彼女は間違えても嫌な表情一つせず、むしろそのやり取りをどこか楽しんでるようにすら感じられた。こちらもついついその表情に連れれて、「ここの答えは〇〇やで」と言ってしまいそうなところをグッと堪えて様子を見守った。

4時間後ついに正解にたどり着いた。

「お腹が空いた~~」と口にした時。そうか、ご飯も食べずにやってたんだと気がついた。

クラスを変更して2ヶ月経ったが、S ちゃんがやり抜いたのを初めて見た瞬間だったかもしれない。その後は早々に帰宅していったが、その姿は自信に溢れていた。たった1問のことなので、そんなに大きな変化はないかもしれないし、定期試験直前の大事な時期であることを考えると、指導としてはどうだったんだろう?と思わなくもない。

しかし、4時間かけて手に入れた姿勢は、今後の勉強への取り組み方に大きな変化を与えた時間だったように思う。そんな大切な何かを手に入れたのではないか?と思うと、たった1問だったが嬉しかった。

さて2人目の女の子の話に入ろう。と書いた瞬間、偶然彼女たちが塾の自習にやってきた。今日月曜日の自習一番乗りだ。こんな偶然があるんだろうか?

では2人目に入ろう。

2人目の女の子は、H ちゃん。彼女は B組の女の子だ。

正直、勉強も好きではない。憧れている高校があるのでそこに行けるだけの力はつけたいと思っている。しかし、想いと行動が一致せず、授業を聞いても睡眠学習。家にいれば布団の中で睡眠学習。これではなかなか成績が上がらない。

しかし、秋口から「このままではまずい」という意識くらいは持っているんだろうと感じ始めていた。

2学期の中間試験を終えたあたりからは、自習も一番乗りで来ることが多くなった。

とはいえ、成績がすぐに伸びるかというとそんなことはない。今までまともに勉強してきてないので、勉強のやり方をすぐに間違う。

昨日はそんな場面だった。勉強ができる子で気分を変えるために教科を途中で変える子はいる。大抵の場合、成績が良い子は区切りの良いところまで一つの教科を解き続けるけることが多い。

しかし、勉強面におけるH ちゃんは類まれなる浮気症である。少し困難な点に出くわすと教科を変えて逃げ出す。こういう姿勢は数学を進めている際に顕著に表れる。昨日の H ちゃんも数学をやっているかと思えば、30分後今度は漢字をやっていた。漢字なんかは空き時間を使ってちょろちょろと進めていけばいいものである。長時間かけて取り組む必要はない。定期試験の配点も10点程度だ。次に見たら、今度は社会。「数学どこまで進んだ?」と声をかけ確認すると、1ページ半で止まっていた。「なんで止まったん?」と聞くと、「どう考えて良いか分からんかったから」と答えた。

1人目のS ちゃんと同様。意図的に教科を変えているのではなく、「壁にぶち当たったから違う方に走る」。これはでは成績が上がるはずもない。

昨日はここを改善してもらいたいと、横に置きながらマンツーマンで一緒に問題を解いた。もともと数学が大して得意でないので、困難の連続だった。しかし、途中で気づいたこともあった。この理解度の中、1人で考えさせるのはほぼ無理。数学が苦手な子は、間違え方が揃わない。「えっ、こんなところで」という躓き方をする。こちらの予想のはるか斜め上で躓く。

2時間かけながら、試験範囲を一緒にやり終えた。

ちょっと自信を付けたのだろうか、もう1回やってみたいと思ったからなのだろうか。

先程自習に来たので、様子を眺めてみると、もう一度数学のワークを頭から解いてるではないか。「2周目いいね~!」とちょけた感じで言ってみたところ、H ちゃんも嬉しそうだった。

さて、昨日から今日にかけての2つのことを書いてみた。

私自身の指導の根っこに、1つ1つをきちんと理解した上で次の問題に進むという姿勢だ。

勉強が出来るようになるには2つのステップがあると思う。

1つ目は、理解できるまで次に進まないこと。今回の2人がまさにこの例だ。

次に、この勉強姿勢が身につけば、自然とその速度は上がる。この循環が上手く作用すると勉強は加速度的に上手になっていく。分からないと気持ち悪い、進みたくない。そんな気持ちとの格闘があったからこそ身に付いた能力だと思う。

受験期なので焦らないかと言ったら嘘になる。しかし、高校に入るだけが勉強ではない。むしろ、その先の時間の方が圧倒的に長い。

目先のことに囚われると大事なことを見失う。やるべきことを順番に、着実に前に進めていきたいと感じた二人の出来事だった。