先日、ある新書を読んで「ほほぅ…!」と感心したので、今日はその話を少ししようと思います。
最近よく本屋で平積みにされている、三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』。
帯には「2024年度売上1位」の文字が…。 もう神様に買ってさっさと読め!と啓示を受けているような気がして、手に取ってみました。
タイトルからして「仕事疲れで、読書どころじゃねぇーよー」みたいな軽いエッセイなのかと思っていましたが、もはや文庫サイズのガチ小論文。
「戦前・戦後の労働と読書の関係」にズバッと切り込んだ内容で、巻末の参考文献だけで10ページ。
知らないことも多くて楽しく読めたのですが、ふと疑問が…。
「なんでこんな真面目な内容で年間売上1位なん?」
教養としては面白いのですが、決して笑って泣ける系でもなければ、自己肯定感爆上げ系でもありません。
その答え、やはりタイトルじゃないでしょうか。
「働いていると本が読めなくなるのか?」
このタイトル。本を読めなくなった社会人が抱えるうっすらとした罪悪感を的確に突いてきます。確かに最近動画やネットでしか情報を得ていない。ううっ、図星という具合に。
編集者は「集英社の吉田隆之介さん」という方だそうです。
私が聞くところによれば作家はタイトルに対する命名権がないと聞いたことがあります。すなわち編集者のバズらせ能力がタイトルに出る。神様の啓示に導かれました。
で、ここからが本題。私は塾講師なので。
「授業をもっと面白くするには?」
多くの先生が日々悩む問いです。もちろん内容は大事。でも授業内容というのはある程度パターンがあって、大きくは変わらない。だからこそ「導入で勝負だ!」という編集者的発想が光るわけです。
例えば、単元名が「1次関数の連立と交点」だったとします。ええ、これでは中学生の心は1ミリも踊りません。そこで編集者マン郷田が介入します。
案1 「直線と直線がすれ違う瞬間」
…ボツ。大して心が動かない。
案2 「直線の衝突事故、発生」
…ボツ。少し興味は出る。
案3 「aとbの運命的な出会い」
…ボツ。傾きaと切片bが入ることで数学嫌いの拒否反応がこの時点で出る。
案4「ひろし君と夢子ちゃんの口づけ。愛の交差点。」
…ボツ。
さすがに中学生には刺激が強すぎ。授業内容に引き込まれ過ぎて、ノートが取れなくなる。おまけに、この導入のあとパターン練習として問題演習を行うのですが、誰をタイトルに入れるかで教室がざわつく。昔に付き合っていた2人をタイトルに入れようもんなら、沈黙が教室を包む。一方で、適当な二人を組み合わせると、「キモーッ」「こいつだけはない!」の応酬合戦になり、授業の収集が付かなくなる。
案5 「ぶつかる瞬間、ちょっと立ち止まって」
…ボツ。
ふざけすぎ。国語の教科書からの引用なので、国語好きには受けるはず。しかし、関数の話から遠くなりすぎて、解説後に授業に抱いた期待が裏切りに変わる可能性がある。
案6 「交点を作れなかった直線たちに」
…ボツ。
ふざけすぎは良くない。ミルクを盗み飲みしたヒロユキの心境を考えると辛くて数字が頭に入って来なくなる。途中で出てくるB29が切片の値かどうかも分からなくなってしまう。
もう、無理。
私には選べません。編集の難しさ。
こういった事例を通して、見せ方の大切さを痛感します。
良いものが売れるわけではなく、相手の心に届いた良いものが売れる。届くから売れる。そういう意味では授業も同様。聞いてみたいと思わせてなんぼ。
こんなことを毎日昼間に考えて、夜の授業に備えるわけですが、いつも堂々巡りを繰り返し、結局は「さぁ、1次関数の連立と交点」始めるよー爪痕を残せないありきたりの授業を進めてしまうのでした…
ではでは。







