中学生に「新書を読む」ことを始めてもらった理由

ここ数週間前から、中学生の塾生たちに「月に1〜2冊、新書を手に取って読んでみよう」と促しています。

もちろん、「国語ができるようになれば」という狙いもあります。しかし、それなら国語の文章問題を解かせた方が、直接的で意味があるかもしれません。

私の本当の意図はもう少し別なところにありました。

「知る」ことで世界が広がる

塾のパンフレットにも書いていますが、「学ぶってわくわく」と書いてあります。これは具体的にどういうことなのか。

身の回りのことに対して興味を持つこと。
世の中は知らないことばかりなんだと気づくこと。
物事どうしにはつながりや、理由があると知ること。

たとえば、こんなことです。

  • 電波時計はなぜ正確に時を刻むのか?
    → 福島県と佐賀県の送信所から、1日に2回、標準電波が送られているから。その電波は「おおたかどや山標準電波送信所」という場所から出ている。そこには原子時計があって、3000万年に1秒しかずれない精度で時刻を刻んでいる。
  • 色のたし算をすると黒なのに、光のたし算は白になるのはなぜ?
    → 絵の具は「引き算の世界(減法混色)」で、混ぜるほど光を吸収して暗くなる。一方、光は「足し算の世界(加法混色)」で、赤・緑・青を混ぜると白になる。スマホの画面が光っているのはこの原理。
  • 60歳のことをなぜ還暦と呼ぶのか?
    → 十干(じっかん)と十二支(じゅうにし)の組み合わせが60年で一巡りして、生まれた年の干支に「還る」から。つまり60年生きると、暦が一周して元に戻る。だから「還暦」。
  • なぜ日本は左側通行で、アメリカは右側通行なのか?
    → 日本は侍が刀を左腰に差していたから、すれ違う時に刀がぶつからないよう左側を歩いた名残。ヨーロッパは馬車の御者が右手で鞭を振るうため、右側通行が広まった。
  • なぜ非常口のマークは緑色の人が走っているデザインなのか?
    → あれは日本人デザイナー・小谷松敏文さんが1979年に考案した「ピクトグラム」で、世界標準(ISO)になった。緑は「安全」を示す国際色。走る人の向きで出口の方向も分かる。

こういうことを知らなくても、生きてはいける

電波時計の仕組みを知らなくても、時計は読めます。
還暦の意味を知らなくても、60歳の誕生日は迎えられます。
非常口マークの由来を知らなくても、避難はできます。

でも、こういうことを少しだけ知っているだけで、日々の生活が少し楽しくなります。

たとえば

  • 美術の授業で絵の具を混ぜながら、「光だったら逆に明るくなるのにな」と考えられる
  • おじいちゃんの還暦祝いで、「暦が一周したんやね。」ってボソッと呟ける。
  • 避難訓練で非常口を見て、「これ日本人がデザインしたんだ」と誇らしく思える

「知っている」の積み重ねが、選択肢を作ってくれる

「将来何をしたいの?」と問われた際に、

「何をしたいのか分からない」

ではなく、

「あれもこれもしたくて選べない」

それくらいたくさんの刺激を受けながら大きくなって貰いたいです。

たとえば、ある生徒は『世界一美味しい煮卵の作り方』という本を読んで、

「卵の殻がツルッと剥けるのは、新鮮じゃない卵だからって初めて知った! 新鮮=良いと思ってたのに、料理によっては逆なんだ!」

と興奮気味に話してくれました。

別の生徒は『眠れなくなるほど面白い 図解 体の話』を読んで、

「人間の体温が36度台なのは、酵素が一番働きやすい温度だからって書いてあった。だから風邪で熱が出るのは、体が菌と戦ってるってことなんだ」

と、保健の授業と繋がったと言っていました。

そのために始めたのが、「新書本読み」

新書は、その道の専門家が一般向けに書いた本です。

  • 文庫本より少し高いけど(800円〜1200円くらい)、情報の質が高い。
  • 小説と違って「知識」が手に入る。
  • 1冊200ページ前後で、中学生でも1週間あれば読み切れる。
  • 岩波ジュニア新書、ちくまプリマー新書など、中高生向けシリーズもたくさんある。

これが、中学生にちょうどいい入り口だと考えています。

※先日中2が「赤色の表紙」を持っていたので、もしかして?「それ、岩波新書」と聞くと、「そうです」と答えました。嫌な予感が。「何読んでるの?」と尋ねると「ゲーム理論」ですと答えます。あちゃーと思いました。「もう読んだ?」と尋ねると「今からです」と言います。
きっとゲームの攻略法が書かれていると思っていたようです。岩波新書は新書の中でも少し格が高い新書で。。。

読んだ後に「読書感想文」を書いてもらう

生徒たちには一つ、課題をお願いしました。

読んだ後に読書感想文を書いてもらうことです。

具体的には、

  1. どんな内容だったのかを簡単に紹介する
    (例:「この本は、お金の歴史について書かれた本です」)
  2. 面白かった一番のポイントや気づきを書く
    (例:「昔は貝殻がお金だったって知ってびっくりしました。”貝”がつく漢字に、貨・財・買・貯があるのはそのためだそうです」)

という2点です。

感想文

先日より、少しずつ読書感想文が集まり始めました。

たとえば、こんな感想が届いています:

今後、「読書感想文」と塾ブログの検索窓でタグ検索していただけると、子どもたちが書いた内容が読めるように記録に残していこうと思います

「上手な文章」は、もっと先の話

もちろん、上手な文章が書けたら素晴らしいことです。
でも、それはもっともっと先の話です。

読んでいく中で、

  • 文章の構成を考え、
  • 面白いところが際立つような修辞を使い、
  • レトリックを駆使して書けるようになる。

それは、もう少し先のことです。

一見すると、

「何が言いたいのかよく分からない」
「箇条書きみたいで文章になってない」
「”すごいと思った”ばっかり繰り返してる」

そんな子どもっぽい文章があるかもしれません。

でも、それでいいのです。初めから上手く書ける子なんていません。

たとえば、最初は

「この本はすごかったです。面白かったです。おすすめです」

という3行だった生徒が、そのうち

「この本には、宇宙の始まりについて書いてありました。ビッグバンで宇宙が生まれたのは知っていたけど、その前は”無”だったと書いてあって、”無”ってどういうことだろうと考えました。何もないのに、どうやって爆発したんだろう?」

と、自分の疑問を書くようになり、さらにその数か月後には

「著者は”無”ではなく”ゆらぎ”があったと説明していました。量子力学では、何もない空間でも粒子が生まれたり消えたりしているそうです。それが宇宙の始まりかもしれないって考えると、”無”と”ゆらぎ”は違うんだなと分かりました」

と、本の内容と自分の考えを分けて書けるように変化していく。これが「成長」です。

検索方法

塾ブログ内に検索窓を設置するので「読書感想文」と入力してください。
子どもたちの記事が一覧で表示されます。

「次にどの本を読もうかな?」という時の参考にしてもらえたら嬉しいです。

最後に、生徒たちが一冊ずつ、自分の世界を広げていくその記録を、温かく見守っていただければ幸いです。