貧しさからの脱出。勉強して損をしたことは一度もなかった。その5。

第一志望では無かったが、進みたい道に進めたのは良かった。しかし、大学の授業がこんなにもつまらないものとは思っていなかった。

自分のペースで勉強したい俺は、すぐに図書館と仲良くなった。いろんな本を読み比べながらその単元やテーマが言わんとする全体像を把握していく。どこかでやった勉強法。そう、中学の時の本屋での立ち読みだ。あの時から勉強方法は何も変わっていない。

3回生になると研究室に配属になる。物性物理の道に進むか、素粒子物理の道に進むか迷った。予備校時代にお世話になった服部先生に相談に行った。物性物理の道に進むことを決めた。決め手は素粒子の世界で戦えるほど自分は賢くなかったからだ。3回生の時点で自分にはそのことがうっすら分かっていた。

そろそろ就活が始まる。今となっては考えられないが、当時は生協から各企業に学生名簿が漏れていたんだと思う。とにかく自宅には企業からのオファーが毎日のように届く。先に就活した友達は1、2次面接をすっ飛ばし、いきなり役員面接に行ったり。景気の良い話が聞こえてくる。また理系の場合は研究室と企業が共同研究をやっていたりするので、研究室の特別枠みたいなものがある。教授の推薦があればすぐに内定という時代だった。日立やソニー、精密機器メーカーなどの大手企業へのルートが準備されていた。こういった特別ルートがここにもあるのだと知る。

現在の塾を始めてから、あるお父さんが進路面談に来られた。俺が出身大学をチラシに書いているので興味を持ってくれたのだろう。お父さんも同じ大学の別学部出身だった。食堂のメニューで油そばが美味かった話や、当時の大学の雰囲気について花を咲かせた。もちろん当時の特別ルートの話も上がった。

横で聞いていた息子に「ほら、先生も言ってるやろ。お父さんがだけじゃないやろ?」と言っていたので、自分の息子にもそんなルートがあることを面談の場で伝えたかったのかもしれない。

「先生、うちの会社はエントリーシートの大学名で面接の可否を分けているんです。ある一定以上の大学であれば、席が空いていますと返信しますし、そうでなければ満席と返すんです。」

流石にこれには驚いた。僕らの学生の頃であれば、そういう時代だったので分からなくもないが、今でもそういう会社があるんだと。

「10名を採用するのに東大生なら30名面接すれば良いかもしれない。しかし、A大学から10名採用するのに100名面接しなければ10名は採用できない。採用コストを考えた際に、30名を面接する方が合理的でしょ?だから企業としては当然東大生から面接を優先的に行います。決してA大学がダメということではないですが、それは確率の問題です。過去の努力量を計るには大学名で判断するのが最も合理的です。ただ、東大生でも仕事のできない奴はいます。しかし、それも確率の問題です。」こう仰った。

現在、多くの企業の採用がどうなっているのかは分からないが、人物重視と言ってもそれは建前。多くの企業では多かれ少なかれこういったことが行われているのではないかと思う。実際、学校名を記載しないグループディスカッションでも、結局選抜されるのは優秀な大学を出ている子から選抜されていると聞いたこともある。努力に裏打ちされた優秀な大学生は、隠しても隠し切れないものが出てしまうんだと思う。

大学名が全てだとは決して言うつもりはないが、かなり重要な要素であることは間違いない。学歴なんて時代遅れだという批判も多いが、少なくともそこに至るまでの努力は相当なものなので、それが評価されるのは至極当然。18歳までの努力で、もしこういったルートが残されているのだとすれば、チャレンジして損はないと思う。

俺のような貧乏育ちが、こういった環境に少しだけ触れられたのもそれまでの努力があったからだと思う。誤解なく伝えたいのが、学歴がなければダメだと言っているのではない。

学歴があることで「選択肢」が増えるということ自体が幸せなことなのだと伝えたい。

(続く)